昭和30年代の思い出エッセイ募集
入選作品紹介
お好み焼きが紡いだ絆
館 高司(埼玉県)
 東京の小学校の教師だったAさんの6年生のクラスに女の子が転校してきた。ふてくされて反抗的。手を焼かされた。
 Aさんは教師を悩んでいた。当時、女の先生には偏見があった。保護者にも信頼されない。「女に何ができる?」人間関係にも悩み来春には辞める決意をしていた。
 家庭訪問で複雑な事情を聞かされた。Mちゃんは広島に住んでいたのだが母親は亡くなっていた。父親は酒浸り、ギャンブル浸け。叔母が引き取った。
 Mちゃんは出かけていた。部屋に絵日記。どのページもお好み焼きの絵が描かれていた。Mちゃんと母親と父親そしておばあちゃんの絵も。 
「私の実家が広島なんですけど、お好み焼き屋をやっていて」
 母親の作るおばあちゃん仕込みのお好み焼きがMちゃんは大好きだった。明るい活発な子だったのに母親が亡くなってからふさぎがちで人見知りに…。
AさんはMちゃんに言った。「先生と居残り授業をしましょう」
 放課後、家庭科室でいっしょにお好み焼きを作る。「二人だけの秘密の授業よ」Mちゃんは初めて笑顔を見せた。
 Aちゃんは変わっていった。笑顔も増えた。休みがちだった学校にも来るようになった。友達も増えた。
 Mちゃんの卒業文集。題名は「A先生との思い出」。「先生は毎日、放課後、私に勉強を教えてくれました。」‘’勉強‘’の内容は明かさなかったけれど。
 Mちゃんは最後にこう綴った。
「A先生は私のお母さんとおばあちゃん」。「A先生みたいな人になりたい」そんな夢をMちゃんは語った。
 十数年後、AさんのもとにMちゃんから結婚式の招待状が届いた。「母親と祖母として出席をしてほしい」中学の家庭科の教師になっていた。
 「お好み焼きと笑顔の溢れる家庭を作りたい」Mちゃんは言った。そしてこう締めくくった。「私を育ててくれたお母さん、おばあちゃんありがとう」
 AさんはMちゃんと目が合った。Mちゃんの瞳から涙がこぼれた。その姿を見たAさんは心でつぶやいた。
「教師を続けさせてくれて、あなたこそありがとう」
テーブルの上のお好み焼きに涙のソースがこぼれた。
一覧
お好み焼きが紡いだ絆館 高司(埼玉県)
祖母のお好み焼き原山 摩耶(徳島県)
オリンピックのお好み焼井山 孝治(広島県)
お好み焼き 嫌いなのか?會澤 公平(広島県)
家庭の味、お店の味。心に刻まれた幸せな風景。峯 綾美(広島県)
おばあちゃんのてっぱんお好み焼きM.N(兵庫県)
貧しかった頃のお好み焼き古田 ミホコ(広島県)
はじめて食べたお好み焼きの思い出呉の秀ちゃん(広島県)
「8マン危機一髪!」井尻 哲(広島県)
父ちゃんの「いえおこ」亀井 貴司(広島県)
「カタカタ」と生玉子の音色(ねいろ)世良 元昭(広島県)
右手の卵大信 容子(広島県)
私とお好み焼き皆川みどり(広島市)
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